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吉野金次(よしの きんじ)とは、日本初のフリーランスレコーディングエンジニア、プロデューサーである。
はっぴいえんど、細野晴臣などの実験的な日本のロック/フォーク創世記の音作りからはじまり、歌謡曲、クラシックとジャンルを超え、いずれもその音楽史上に残る作品にかかわり続けている。


1.概要

1948年生まれ。東京都出身。電気系の学校を経て、1967年に東芝音楽工業(現・東芝EMI)の録音部に入社。
単に音を記録するのではなく、ミュージシャンと一緒に音楽を創造するという姿勢が当時、毎日上司と衝突する要因となっていたようだ。
ビートルズのマスター・テープに触れ、そこから知り得たノウハウをもとに喜多嶋修と1971年に「ジャスティン・ヒースクリフ」を制作。会社に内緒でその作業を行っていたのが発覚して退職を余儀なくされ、期せずして日本初のフリーランス・レコーディングエンジニアとなった。

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退職後の活躍ぶりをみると会社員の枠に収まる存在でなかった事は明らかで、はっぴいえんど「風街ろまん」で聴けるそれまでの日本ロックが到達し得なかったサウンド、細野晴臣「HOSONO HOUSE」における自宅録音のはしりとも言えるプロジェクトの完遂、さらには佐野元春「SOMEDAY」、近年ではゆず「ユズモア」など、実に多くの名盤の誕生に関わっている。

ほかにも、沢田研二、キャンディーズといった歌謡曲の仕事や、クラシック・ファンの間では今も名盤として語られる事の多い朝比奈隆指揮・大阪フィルハーモニー交響楽団によるブルックナーの録音など、ジャンルを問わず優れたレコーディング/ミックスの実績がある。




2006年に脳梗塞で倒れた際、矢野顕子らの提唱により「吉野金次の復帰を願う緊急コンサート」というチャリティライブが行われた。
2009年末に矢野のアルバム『音楽堂』から仕事復帰している。

「年下の男の子」で深夜にまで及んだキャンディーズのヴォーカルレコーディングが完了し3人は帰宅。徹夜でのミックスダウン作業中にヴォーカルミックスにさしかかった午前3時過ぎ、穂口氏らスタッフはランのヴォーカルにどうしても気に入らない小節があることに気づいた。締切りは翌日。
その時、穂口氏がいう「キャンディーズが時代を超えたもうひとつの秘密兵器」だったエンジニアが言いました。
「ランに来てもらいましょう」
そのレコーディングエンジニアこそ吉野金次氏である。
このような優れたレコーディングエンジニアに支えられたキャンディーズのサウンドが、他のアイドル歌謡曲と比べて明らかに違い、時代に色褪せること無のないサウンドとともにロック系に傾倒していったのも頷ける。
また「微笑がえし」のレコーディングミキサーも担当している。

2.エピソード

日本で初めてフリーのレコーディングエンジニアになった人を知っているだろうか?
立花隆の「青春漂流」によれば吉野金次だそうだ。吉野金次の生き様ですが、東芝に入社してからは毎日上司と衝突していたそうです。

「たとえば、ドラムの叩き方なんて、昔のジーン・クルーパー風のカンカンという叩き方なんですね。それじゃダメだから、チューニングを変えろ、叩き方を変えろなんていったり、
それでもダメなときは、こっちでイコライザーをかけて音を勝手に変えちゃうとか、レベルを下げてろくに聞こえないようにするとかやるわけです。
すると、向こうは録音されたものを聞いて、これはオレの音じゃないといって怒る。こっちは、あんたの音は古いんだよと正面切って批判する。
それまでの録音技師は、ミュージシャンやディレクターのいうことを何でもハイハイと聞いている存在で、こちらから注文をつけるなんてことなかったんですね。
それがいろいろ注文をつけるし、あげくのはては音のセンスが悪いの、古いの、ダサイのとけなす訳でしょう。そりゃ、いやがられますよ」

すごいですよね。まだ20歳ぐらいの頃ですよ。音のセンスが悪いなんて、ベテランミュージシャンに向かって言うわけですからね。
タチが悪いというか、よほど音に自信がないと言えませんもんね。こいうことが原因で東芝をクビになるそうです。カッコいいです。

あと面白いのは、ビートルズサウンドの研究の部分です。

「たとえば、ドラムのスネアの音が普通とはまるでちがうんですね。何度聞いてもよくわからない。皆で、この音はどうやって作ったんだろうと大議論をかわしました。
これは普通のスネアじゃなくて特注品じゃないかとか、何か特殊なアタッチメントを使ったんじゃないかとか、果ては、ドラマーの筋力の差ではないかという意見まで出た」

リンゴスターのドラムの音のことである。つまりはエンジニアのジョージマーティンの作ったスネアの音のことである。
これがどうしても真似の出来ない音だったそうです。

正解はリミッターだそうです。

こういう時代だったんですね。感慨深いです。この頃からリミッターが登場したんですね。やっぱビートルズってすごいです。それにこの音を筋力の差だと思うところも面白いですよね。
日本のプロのエンジニア達が、リミッターも分からずに、あれこれ分析してたんですからね。確かにリミッターの音って、説明されなければわかりませんよね。

あと、ボーカルのダブルレコーディングも分からなかったそうです。何度聞いても、どうしたらそんな音が出せるか分からなくて、特別のアンプを使ったのではないかと考えたそうです。
まさか一人の人が二度歌ったなど夢にも思わず。興味深いエピソードですね。

その後、紆余曲折があって、「はっぴいえんど」の風街ろまんを手がける。
はっぴいえんどは、ビートルズとジョージマーティンの関係のように、「はっぴいえんど」の5人目のメンバーとしてミキサーを受け入れてくれたのだ。
「風街ろまん」は、日本の音楽界にセンセーションをまき起こした。
「日本語はロックに乗らない」という定説を打ち破った上、日本でもこれだけのサウンドを作れる男がいると、ミキサー吉野の存在を世に広く知らしめることになったのである。

(※青春漂流の吉野金次より引用)

3.出典、参考文献

・Wikipedia
・グリーンドア音楽出版
・ラフミックス 宅録と機材紹介
・現実となったビジョン 穂口雄右


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Last-modified: 2019-12-08 (日) 02:20:13